- 海外企業買収時は税務上どんなことを検討すればいいの?
- 税務デュー・デリジェンス(Tax Due Diligence)って何?
- 税務デュー・デリジェンスで特に抑えておくべきポイントを教えて!
こんなお悩みを現役公認会計士・税理士が解決します。
本記事の内容
- Due Diligence(デュー・デリジェンス)とは?
- 税務デュー・デリジェンスの目的
- 税務デュー・デリジェンスの主な確認事項
本記事の信頼性
現役公認会計士・税理士である黒澤国際会計事務所代表が本記事を執筆しました。
監査法人時代や海外駐在時に多種多様な会計・税務プロジェクトで実績を積み、独立後も国際税務や海外ビジネス展開に関するアドバイスを提供しています。
海外事業に係る会計処理や国際税務、クロスボーダーM&A、海外子会社マネジメントなどを得意としています。
国際税務について、実務担当者はもちろん、税務にあまり馴染みのない営業担当者や経営者でも理解できるようにわかりやすく解説していきます。
コチラの記事では海外に駐在員事務所、支店、または子会社を立ち上げる場合の課税関係について解説しました。
一方、海外進出時のもう一つの進出形態として、現地の会社を買収するという手段もあります。
買収の場合、対象会社は既に現地で事業を営んでいるため、新たに支店や子会社等を立ち上げる場合と比べてスムーズに現地で事業を開始でき、時間を節約できるというメリットがあります。
一方で、既に事業を営んでいるため、既に債権債務を有しており、また様々なリスクを抱えている可能性があります。
そこで、今回は海外企業の買収時に税務上の観点から留意すべき事項について解説していきます。
具体的には「Due Diligence」と呼ばれる作業を実施し、買収対象会社のリスクを洗い出すことが必要となります。
買収時はDue Diligence(DD:デュー・デリジェンス)が必要となる
企業買収を行う際は、まずDue Diligence(DD:デュー・デリジェンス)を実施する必要があります。
投資や買収にあたって投資対象会社・買収対象会社を調査すること
上記の通り、海外の企業を買収する場合、その企業がどのような経営状況にあるか、重大なリスクを有していないかなどは買収意思決定にあたって重要な判断要素となります。
このような買収先の状態を把握するために実施するのがDue Diligenceです。
買収先の経営状況や財政状態、リスクの有無などを把握するために実施するのがDue Diligence
買収してからは契約内容は変えられませんが、買収前にDue Diligenceによって問題点等を見つけた場合、契約にその問題に関する事項を盛り込んだり、リスクが大きすぎると判断する場合には買収を取りやめることも可能です。
そのため、買収にあたってDue Diligenceを行うことは非常に重要となっています。
なお、一口にDue Diligenceといっても、その調査内容は様々あります。
DDの主な種類 | 英名 | 調査対象 |
---|---|---|
事業デュー・デリジェンス | Commercial Due Diligence (CDD) | 経営や事業の状況など |
財務デュー・デリジェンス | Financial Due Diligence (FDD) | 会社の財政状態など |
法務デュー・デリジェンス | Legal Due Diligence (LDD) | 許認可や訴訟の有無など |
税務デュー・デリジェンス | Tax Due Diligence (TDD) | 税務申告内容や納税状況 |
ITデュー・デリジェンス | IT Due Diligence (ITDD) | 情報システム |
人事デュー・デリジェンス | HR Due Diligence (HRDD) | 人事制度など |
今回はこの中でも特に税務デュー・デリジェンスについて詳しく解説します。
税務DDの主な目的
Due Diligenceの中でもTax Due Diligence(税務DD)は以下の理由から非常に重要な調査となります。
- 対象会社の税務の状況については一般に公開されている情報からはほとんどわからない
- 税務リスクによって買収スキームや買収額を変更したほうがいい場合もある
税務DDは、主に対象企業の過去の税務申告内容や納税状況、税務処理などを調査し、税務リスクを洗い出すことを目的としています。
このとき、過去の状況のみならず、現在の税務ポジションや、買収による影響など将来のことまで考えることが重要です。
税務DDによって重大な税務リスクが発見された場合、税務リスクを軽減するスキームの検討を行ったり、あまりにもリスクが大きすぎる場合には買収を取りやめることも検討しなければいけません。
税務DDの主な確認事項
海外企業を買収する際の税務DDは、現地税制に基づき対象会社の税務の状況を確認する必要があるため、基本的に現地の税務専門家に依頼することになります。
税務DDにおける主な確認事項は以下の通りです。
申告書のレビューやインタビューによる潜在的税務リスクの検討
➡買収後に税務調査が入り追加納税が発生する場合もあり、過去の潜在的な債務を洗い出すことが最も重要。
国によって検討すべき税目は異なる可能性があるため、現地の専門家とのスコーピングが重要。
税務調査や税務訴訟等の状況確認と今後の影響
➡状況によっては追加で納税が必要になる可能性もあるため、税務調査や税務訴訟の内容や、その後の処理が整合的に行われているかの検討が必要。
対象会社の税務ポジションの把握
➡過去のイベントによる税金への影響が今後顕在化してくる場合があるため(例えば繰り延べられた含み益が実現するケースなど)、現状の税務ポジションを把握することは重要。
タックスプランニングの確認
➡買収対象会社において構築されたタックスプランニングがある場合、買収後の買い手にとっての有用性や新たな税務リスの有無などを検討する必要がある。
繰越欠損金等の買収後の利用可能性
➡利用可能な欠損金や優遇税制の適用を検討することで、それを活かした買収方法やストラクチャーのプランニングを行うことが可能となる。
税務DDは将来のことも考えて実施する
税務ストラクチャーは、例えば税務ポジションなどを有効に活用するためのスキーム検討など、将来の税務リスクをコントロールすることを目的として実施するものです。
税務DDによって洗い出された過去の税務リスクや現在の税務ポジションは、将来の税務上のリスクを減らしたり、現状の税務ポジションを有効に活かすために、税務ストラクチャーに反映していくことが重要です。
適切な税務ストラクチャーを実施するためにも、税務DDでは以下の事項を検討することが重要です。
- 買収による株主変更によって繰越欠損金の引き継ぎ制限などの不利益は発生するか
- 対象会社が適用している優遇税制の継続可否
- 日本のタックス・ヘイブン対策税制の対象となり得るか
- 移転価格税制への対応状況と買収後の対応の方向性
まとめ
以上、今回は海外企業の買収時に税務DDが必要となること、そして税務DDにおいて一般的に検討すべきことを解説しました。
今回のポイントは以下の通りです。
- 買収の場合、スムーズに現地で事業を開始でき、時間を節約できるというメリットがある一方、様々なリスクを抱えている可能性がある
- Due Diligenceは買収先の経営状況や財政状態、リスクの有無などを把握する目的で実施する
- 税務DDは、対象企業の過去の税務申告内容等を調査し、税務リスクを洗い出すことを目的としており、過去の状況のみならず、現在の税務ポジションや、買収による影響など将来のことまで考えることが重要
- 買収前に税務DDによって問題点等を見つけた場合、契約にその問題への対応を盛り込んだり、リスクが大きすぎると判断する場合には買収を取りやめることも可能
それでは今回は以上です。
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