- 海外の税金は全て外国税額控除を適用可能?
- 外国税額控除が適用可能な場合とそうでない場合の例を知りたい!
- 外国税額控除の控除限度額はどうやって算定するの?
こんなお悩みを現役公認会計士・税理士が解決します。
本記事の内容
- 外国税額控除の適用対象となる外国法人税の解説
- 外国税額控除の適用対象・適用対象外となる外国法人税の例示
- 外国税額控除の控除限度額の算定方法のわかりやすい解説
本記事の信頼性
現役公認会計士・税理士である黒澤国際会計事務所代表が本記事を執筆しました。
監査法人時代や海外駐在時に多種多様な会計・税務プロジェクトで実績を積み、独立後も国際税務や海外ビジネス展開に関するアドバイスを提供しています。
海外事業に係る会計処理や国際税務、クロスボーダーM&A、海外子会社マネジメントなどを得意としています。
国際税務について、実務担当者はもちろん、税務にあまり馴染みのない営業担当者や経営者でも理解できるようにわかりやすく解説していきます。
前回記事で「外国税額控除」の全体像を示したので、今回は外国税額控除制度のより詳細について解説します。
具体的には、海外で支払った税金のうちどのようなものが実際に外国税額控除を適用できるのかや、海外で支払った税金は実際にどこまで日本の税金から控除できるのかです。
海外で支払った税金であっても、必ずしも外国税額控除が適用できない場合もあるため、グループ全体の税負担をしっかり検討するためにも、今回の記事は必見です。
外国税額控除の対象となる外国法人税
外国税額控除の対象となる外国法人税は、「控除対象外国法人税の額」と呼ばれます。
外国税額控除の対象となる外国法人税(=「控除対象外国法人税の額」)は、日本の法人税に相当する租税であって、外国の法令に基づき外国またはその地方公共団体により「所得を課税標準として」課される税
この「控除対象外国法人税の額」の定義においては、「所得を課税標準として」という点に注意が必要です。
言葉の通り、いわゆる「所得」を課税標準とする税金のみが外国税額控除の対象。
そのため、「所得」を構成しない金額に対する外国法人税や、総収入(損金を控除する前の受取額の全額)を課税標準とする外国法人税は控除の対象とならない。
つまり、ざっくり言うと海外で課された法人税が外国税額控除の対象となりますが、その全てに適用できるわけではないため、どの外国法人税が控除の対象となるかをまずは見極める必要があります。
(1)対象となる「外国法人税」を特定する
(2)対象の「外国法人税」のうち、適用対象外となる部分を除く
(1)対象となる「外国法人税」を特定する
実際に「外国法人税」に含まれるものの例示は以下の通りです。
- 超過利潤税その他法人の所得の特定の部分を課税標準として課される税
- 法人の所得またはその特定の部分を課税標準として課される税の附加税
- 法人の所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、法人の特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの
- 法人の特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、法人の収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税
少し難しそうな言葉が並んでおり理解が進まない部分もあるかと思いますが、全てに「所得」という言葉と、「課税標準として」という言葉が入っていることに着目して頂ければと思います。
つまり、基本的には「所得を課税標準とした税金か否か」が判定のキーポイントとなる
一方で「外国法人税」に含まれないものの例示は以下となります。
- 税を納付する者が、当該税の納付後、任意にその金額の全部または一部の還付を請求することができる税
- 税の納付が猶予される期間を、その税の納付をすることとなる者が任意に定めることができる税
- 複数の税率の中から納税者と政府が合意で税率を決められる税
- 外国法人税に附帯して課される附帯税に相当する税その他これに類する税
- 外国法人等の所得について、内国法人の所得とみなして当該内国法人に対して課される外国法人税の額
- 内国法人の国外事業所等において、当該国外事業所等から本店等または他の者に対する支払金額等がないものとした場合に得られる所得につき課される外国法人税の額
(2)対象の「外国法人税」のうち、適用対象外となる部分を除く
さらに、「外国法人税」であったとしても、外国税額控除の対象から除かれる部分があります。
対象の「外国法人税」から以下のもの除いた部分が、最終的に「控除対象外国法人税の額」となります。
- 所得に対する負担が高率な部分の金額
- 通常行われる取引とは認められない取引に基因して生じた所得に課される外国法人税の額
(これの対象となる具体的な取引の列挙あり) - 日本の法人税が課されない所得に対する税(二重課税が発生しないため)
- みなし配当が発生する場合において株式の取得価額以下の部分に対応する税
- 相互協議に基づく調整後に実際に支払われない金額を配当とみなして課す税
- 外国子会社配当益金不算入税制の適用を受ける配当に対する源泉税
- 国外事業所から本店への支払いにつき、当該国外事業所の所在国で課される税
- タックス・ヘイブン対策税制上の外国関係会社から受け取る配当に対する税
- 租税条約により軽減される外国法人税
様々なものが例示列挙されていますが、ポイントはそもそも二重課税を生じさせない外国法人税や、既に別の税制で負担が軽減されている外国法人税については外国税額控除の対象にはならないとうことです。
外国税額控除の趣旨が二重課税の緩和・排除にあることを考えると、すんなり理解できるかと思います。
なお、「所得に対する負担が高率な部分の金額」はイメージしにくいかと思いますので、簡単に補足します。
「所得」に対して課される外国法人税のうち、その課税標準額の35%を超えて課される税額については「外国法人税の負担が高率な部分」として外国税額控除の対象から除かれている
(「利子等」に対する外国の源泉徴収税については、原則として利子等の金額の10%を超えて課される税額が「高率な部分」とされる)
これは、日本の税率を超える部分についてまで外国法人税の控除を認め、安易に日本の税収を犠牲にしないようにするためです。
控除限度額の算定方法
外国税額控除により法人税の額から控除できる金額は、以下の何れか少ない金額とされています。
- 控除対象外国法人税の額
- 控除限度額
控除限度額の算定方法
控除限度額は以下の算式により算定します。
その事業年度の「国外所得金額」(国外事業所等帰属所得に係る所得とその他の国外源泉所得に係る所得の合計)から、「外国法人税が課されない国外源泉所得」(税制上に16種類の所得が列挙)を控除した金額。
但し、その金額が所得金額の90%相当額を超える場合には、その90%相当額が調整国外所得金額となる。
この算式は「日本での納税額のうち国外源泉所得に対応する部分」を計算している言え、控除できるのは二重課税が発生している部分までに限定していると言えます。
法人税総額のうち、国外源泉所得に当たる部分を限度額とすることで、二重課税が生じている部分以上に控除されることがないようにしている
外国税額控除の控除限度額に関する留意事項
その他、外国税額控除による控除について押さえておくべきポイントは以下となります。
- 「控除対象外国法人税の額」が法人税の控除限度額を超えるときは、地方法人税控除限度を限度として、地方法人税の額から控除することができる
- 法人税および地方法人税から控除しきれない場合、道府県民税から控除でき、なお控除しきれない場合は市町村民税から控除することができる(地方税控除限度額あり)
- 「控除対象外国法人税の額」が法人税の控除限度額を超えるときのその超過額、また逆に控除限度額を下回るときの余裕額は、ともに将来3年にわたり繰り越しが可能
(国外源泉所得の発生時期と外国法人税が課される時期は必ずしも一致しない可能性があるため)
まとめ
以上、今回は「外国税額控除」の具体的な対象となる外国法人税と、「外国税額控除」の控除限度額について解説しました。
今回のポイント以下の通りです。
- 海外で所得を課税標準として課された税金が基本的に外国税額控除となり、それ以外の税金は対象外
- 「控除対象外国法人税の額」は、対象となる外国法人税から適用対象外となるものを除くことで算定
- 日本で税金が課されない国外所得に対する外国法人税や、外国法人税の負担が高率な部分(課税標準額の35%を超えて課される税額)については外国税額控除の対象から除かれる
- 外国税額控除により法人税の額から控除できる金額は、「控除対象外国法人税の額」と「控除限度額」のいずれか少ない金額
- 控除限度額は日本での納税額のうち国外源泉所得に対応する部分を国外所得の割合から算出する
- 限度額を上回った場合の超過額、下回った場合の余裕額は将来3年にわたり
それでは今回は以上です。
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