- 海外子会社から利益を回収するときは配当と利息どっちがいいの?
- 海外子会社から配当で利益回収するときはどんな課税関係が生じる?
- 海外子会社から利息で利益回収するときはどんな課税関係が生じる?
こんなお悩みを現役公認会計士・税理士が解決します。
本記事の内容
- 海外子会社から配当で利益回収する場合の課税関係
- 海外子会社から利息で利益回収する場合の課税関係
- 海外子会社から配当または利息で利益回収する場合の課税関係まとめ
本記事の信頼性
現役公認会計士・税理士である黒澤国際会計事務所代表が本記事を執筆しました。
監査法人時代や海外駐在時に多種多様な会計・税務プロジェクトで実績を積み、独立後も国際税務や海外ビジネス展開に関するアドバイスを提供しています。
海外事業に係る会計処理や国際税務、クロスボーダーM&A、海外子会社マネジメントなどを得意としています。
国際税務について、実務担当者はもちろん、税務にあまり馴染みのない営業担当者や経営者でも理解できるようにわかりやすく解説していきます。
海外にビジネスを拡大するために海外子会社を立ち上げる場合、現地で事業を行っていくための資金を海外子会社に入れる必要があります。
海外子会社へ資金を入れるためのファイナンス方法としては、大きく「出資」と「融資」があります。
この2つのファイナンス方法の違いによって、海外子会社が現地で得た利益を日本親会社に還流させる場合等に税務上の取り扱いに違いが生じてきます。
そこで、今回はこのファイナンス方法の違いによる課税関係の違いについて解説していきます。
配当により利益回収する場合の課税関係
出資によるファイナンスでは、一般的には海外子会社が株式を発行し、その株式を日本親会社が取得することにより海外子会社に資金を注入します。
配当により利益回収する場合の海外子会社、日本親会社それぞれに対する課税関係は以下の通りです。
海外子会社側の課税関係
海外子会社が現地で稼いだ利益を配当として日本親会社に還元する場合、海外子会社側のポイントは以下の通りです。
- 配当は税引後利益から支払われることから、一般的には支払配当金を損金に算入することができない
- 現地税制によるが、日本親会社が受け取る配当金は現地で課税対象となることが多く、海外子会社が配当金を支払う場合には原則として源泉徴収が必要となる
この源泉税については租税条約によって免税または税率が軽減されていることがあるため、源泉徴収にあたっては、現地税制のみならず租税条約を確認することも重要となります。
日本親会社側の課税関係
海外子会社が現地ビジネスで獲得した利益を配当という形で回収する場合、日本親会社側では受取配当金という所得が発生することになります。
ポイントは以下です。
- 「外国子会社配当益金不算入制度」を適用することで、配当の95%相当額が非課税となる
- 配当に係る源泉税は損金に算入することはできないし、外国税額控除も適用することもできない
この制度の適用には海外子会社の持分25%以上を6ヵ月以上継続保有していることが必要になります。
配当の場合の課税関係のまとめ
出資によるファイナンス方法を選択し、海外子会社の利益は配当という形で回収する場合の課税関係をまとめます。
配当による利益還流に対して発生するる税務コストは以下の3つ
- 海外子会社の利益に対する現地税金
- 配当に係る源泉税
- 配当の5%部分に対する日本法人税
これを踏まえると、海外子会社の設立においては、進出先の法人税等の税率のみならず源泉税率についても考慮しておくことが重要となります。
利息により利益回収する場合の課税関係
融資によるファイナンスは、日本親会社から海外子会社に対して貸し付けすることにより資金を注入する方法です。
利息により利益回収する場合の海外子会社、日本親会社それぞれに対する課税関係は以下の通りです。
海外子会社側の課税関係
海外子会社が現地で稼いだ利益を利息として日本親会社に還元する場合、海外子会社側のポイントは以下の通りです。
- 支払利息は配当と異なり一般的に損金算入が可能であり、海外子会社の所得を所得を減少、つまり現地税金をへらす効果がある
- 現地税制によるが、日本親会社が受け取る利息は現地で課税対象となることが多く、海外子会社が利息を支払う場合には原則として源泉徴収が必要となる
- 過大な借入による課税所得圧縮(過度な節税)を防止するため、過少資本税制が導入されていることが多い
過少資本税制が適用される場合、一定の割合を超える部分の利息は損金算入が認められません。
この税制の詳細は国によって異なるため、進出先の税制を事前にしっかりと確認することが必要となります。
日本親会社側の課税関係
海外子会社が現地ビジネスで獲得した利益を配当という形で回収する場合、日本親会社側では受取利息という所得が発生することになります。
- 受取配当金と異なり、受取利息は基本的に全額益金として課税対象となる
- 現地で課された源泉税については「外国税額控除」により二重課税の排除が可能
- 親子会社間の融資取引は移転価格税制の対象となるため、移転価格上問題とならないように金利を設定する必要がある
移転価格税制に対応するため、海外子会社の第三者からの借入に対する金利等を意識して、融資に対する適切な金利を決定する必要があります。
利息の場合の課税関係のまとめ
融資によるファイナンス方法を選択し、海外子会社の利益は利息という形で回収する場合の課税関係をまとめます。
- 利息は現地所得を圧縮する効果があるが、現地源泉税と日本での所得税課税により二重課税が発生する
- この二重課税は外国税額控除により排除可能
- 過大な支払利息は過少資本税制や移転価格税制により指摘を受ける可能性があるため注意が必要
まとめ
以上、今回は海外子会社から利益を回収する方法である「配当」と「利息」についての課税関係を解説しました。
最後にそれぞれの課税関係を表にまとめておきます。
配当 | 利息 | |
---|---|---|
現地課税 | 損金算入できない | 損金算入できる |
現地源泉税 | あり | あり |
日本での課税 | 95%部分は非課税 | 全額課税対象 |
外国税額控除 | 適用できない | 適用できる |
税務コスト | ①子会社の利益に対する現地の税金 ②配当に対する現地源泉税 ③配当の5%部分に対する日本の税金 | ①受取利息に対する日本の税金 |
留意すべき税制 | ・租税条約 | ・過少資本税制 ・移転価格税制 |
それでは今回は以上です。
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