- 国際税務の主なトピックって何があるの?
- 国際税務の中で理解しておくべき重要な制度って何?
- 国際税務の主要トピックの内容をざっくり把握したい
こんなお悩みを現役公認会計士・税理士が解決します。
本記事の内容
- 国際税務の9つの主要トピック
- 二重課税を発生させる制度と排除・緩和する制度
- 主要トピックの簡単な解説
本記事の信頼性
現役公認会計士・税理士である黒澤国際会計事務所代表が本記事を執筆しました。
監査法人時代や海外駐在時に多種多様な会計・税務プロジェクトで実績を積み、独立後も国際税務や海外ビジネス展開に関するアドバイスを提供しています。
海外事業に係る会計処理や国際税務、クロスボーダーM&A、海外子会社マネジメントなどを得意としています。
国際税務について、実務担当者はもちろん、税務にあまり馴染みのない営業担当者や経営者でも理解できるようにわかりやすく解説していきます。
国際税務の基本的な内容についてはこれまでの記事(国際税務の基礎シリーズ)で解説してきました。
ここからは、これらの基本的な理解をベースに、国際税務の主要論点を具体的に解説していきます。
まずはこの記事で国際税務の主要トピックの全体像を把握して頂くために、国際税務の主要トピック9つをこの記事でまとめました。
それぞれの具体的な内容については別記事で解説しているため、より深く知りたいトピックについてはそれぞれのリンクから更に深掘りしてみてください。
国際税務の主なトピック
海外でビジネスを行う企業にとっては、コチラの記事で解説した通り、日本と海外の双方で課税される可能性があることが一番の留意事項であり、懸念事項かと思います。
そして国際税務の主要論点もこの二重課税を中心に構成されています。
- PE課税
- 移転価格税制
- 国外関連者に対する寄付金
- タックス・ヘイブン対策税制
- 利息の損金性を制限する税制
- 租税条約
- 外国税額控除
- 相互協議
- 外国子会社配当益金不算入制度
これら9つのトピックについて、以下それぞれ簡単に説明していきます。
二重課税を発生させる制度
二重課税を発生させる制度とは、主に国際的な脱税や租税回避を防止するために設けられている制度です。
つまり、租税回避等の防止のため、海外の所得が日本で課税されたり、日本の所得が海外で課税されたりすることで、二重課税が発生します。
企業の立場としては、何とか適用を回避したい制度と言えるでしょう。
① PE課税
PEとは「Permanet Establishment」の略であり、日本語では「恒久的施設」と呼ばれます。
海外で事業を行っていてもPEがない場合は税金は発生しないという制度であり、非居住者の事業所得についてはPEに帰属する所得のみが課税対象となります。
この「PEを通じて事業を行わない限り課税はされない」というのが国際的な課税原則の一つとなっており、これが「PEなければ課税なし」と言われる理由です。
② 移転価格税制
移転価格税制とは、海外の関係会社等を利用した節税を防止するための制度です。
例えば、海外進出先と日本で税率が異なる場合、親子会社間の取引価格を調整することで税金を抑えることができる可能性があります。
このような租税回避を防止するために各国税務当局は目を光らせており、取引価格が妥当ではないとして追加の課税がなされた場合は二重課税が発生します。
③ 国外関連者に対する寄付金
「国外関連者に対する寄附金」とは、「寄附」という名目を伴っていなくとも、海外子会社へのサービス等が「実質的に寄附」であるとして、日本親会社が負担する損失が全額損金不算入になるという制度です。
例えば、以下のようなケースがこの制度の対象となります。
- 日本親会社が海外子会社の業務支援のために人員を派遣する等のサービスを無料で行った場合
- 海外子会社の再建のために日本親会社が債権放棄を行う場合等が
④ タックス・ヘイブン対策税制
タックス・ヘイブン対策税制と聞くと複雑そうなイメージを持つかもしれないですが、簡単に言うと、税率がとても低い国の海外子会社の所得は日本で親会社の所得と合算して課税してしまおうという制度です。
外国子会社合算税制やCFC税制(Controlled Foreign Company税制)と呼ばれることもあります。
例えば、税率ゼロの国に海外子会社を作って、その会社に何とかして所得を移転させることができれば税金を安く抑えることが可能となってしまいます。
このような課税逃れを防止するための制度がタックス・ヘイブン対策税制です。
タックス・ヘイブン対策税制の適用を受けることによって、海外子会社の所得は海外でも日本でも課税されることとなり、二重課税が発生します。
⑤ 利息の損金性を制限する税制
海外子会社が親会社に支払った支払利息の損金算入が一部制限されるケースがあります。
このような場合、日本親会社が受け取った利息は当然に課税されるため、海外で損金算入が制限された部分は二重課税となってしまいます(支払利息分だけ所得が増えてしまうため)。
支払利息の損金算入が制限されるケースとして、大きく以下3つの制度があります。
- 金利の水準等で制限される場合(移転価格税制)
- 所得に対する支払利息の割合で制限される場合(日本でいう過大支払利子税制)
- 負債と資本の比率で制限される場合(過小資本税制)
二重課税を緩和・排除する制度
二重課税を緩和・排除する制度とは、言葉の通りですが国際的な二重課税を軽減するための制度です。
税制は国によって異なるため二重課税が発生することがありますが、これを放置すると国際的な経済成長の妨げになってしまいます(企業が海外に出て行きたがらなくなってしまうため)。
そこで、できる限りこの二重課税を排除しようと設けられている制度であり、企業の立場としては、積極的に活用を検討したい制度と言えるでしょう。
① 租税条約
租税条約とは、二重課税の緩和・排除や租税回避の防止などを目的として、二国間で締結される条約のことです。
2023年1月1日現在、日本は151の国・地域と租税条約を締結しています。
日本企業が海外でビジネスを行う場合、二重課税を受けないようにするため、または二重課税を少しでも緩和するためにも、日本の税制や進出先税制と合わせて租税条約も確認することが重要となります。
② 外国税額控除
外国税額控除とは、海外の所得も含めて計算された日本の税金額から、海外で発生した税金を差し引くことができる制度です。
日本の居住者である日本企業は、日本の所得のみではなく、海外で稼いだ所得についても日本で課税されますが、この海外で稼いだ所得については多くの場合海外でも課税されるため、日本と海外での二重課税が生じます。
この二重課税を緩和・排除するために、外国税額控除により、海外で発生した税金分を日本の税金額から一定の条件のもと差し引くことができるようになっています。
③ 相互協議
相互協議とは、文字の通り「国と国の税務当局間で行われる協議」のことですが、租税条約に基づき二重課税排除のために行われる協議という点がポイントとなります。
例えば、海外で移転価格課税がされた場合、日本とその国の税務当局の「相互協議」により、日本では税金を還付することで二重課税の緩和・排除が行われることがあります。
なお、この「相互協議」により両国の当局に事前に確認を行うことを「二国間APA」と言います。
④ 外国子会社配当益金不算入制度
外国子会社配当益金不算入制度とは、名称が長いですが、簡単に言うと海外の子会社からの配当の95%は所得に含めなくていいですよ(=その分の税金が掛からない)という制度です。
この配当を支払う海外子会社側で税金が発生している場合、日本側で課税しないことにより、二重課税が発生しないようにしている制度です。
まとめ
以上、今回は国際税務の主要トピック9個を簡単に紹介しました。
この記事を通じて二重課税が具体的に発生している状況をイメージできるようになり、その二重課税を緩和・排除するために色々な制度があるんだなーということをご理解頂ければと思います。
それでは今回は以上です。
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