- IFRS15/新収益認識会計基準のステップ3は何が重要?
- 取引価格の算定に関する基準上の記載はわかりにくい・・・
- 取引価格を算定するだけなのに何か論点あるの?
こんなお悩みを現役公認会計士が解決します。
本記事の内容
- 取引価格算定に関する4つの論点
- 「別個の財またはサービス」と「一連の別個の財またはサービス」の具体的な内容
- 「別個の」財またはサービスとなるための要件
- 「一連の」別個の財またはサービスとなるための要件
本記事の信頼性
現役公認会計士・税理士である黒澤国際会計事務所代表が本記事を執筆しました。
監査法人時代や海外駐在時に多種多様な会計・税務プロジェクトで実績を積み、独立後もIFRS導入プロジェクトやIFRS15に関する会計相談を提供しています。
海外事業に係る会計処理や国際税務、クロスボーダーM&A、海外子会社マネジメントなどを得意としています。
IFRS15/新収益認識会計基準について、実務担当者はもちろん、会計にあまり馴染みのない営業担当者等でも理解できるようにわかりやすく解説していきます。
ステップ3では取引価格の算定が必要となりますが、取引価格の算定なんて契約価格だから単純と思われているかもしれません。
しかし、この取引価格の算定には意外と様々な論点があります。
その中でも今回は「契約における重要な金融要素」について集中的に解説していきます。
まずは収益認識の5ステップを復習
まずは収益認識の5ステップをさらっと復習したいと思います。
5ステップとは、収益を認識する単位や、タイミング、金額を決定するためのガイダンスです。
つまり、いつ売上計上すべきか、いくらで売上計上すべきかなどは5ステップに従って決定する必要があるということです。
IFRS15の収益認識の5ステップ
STEP1: 顧客との契約を識別する
STEP2: 契約における履行義務を識別する
STEP3: 取引価格の算定
STEP4: 取引価格を履行義務に配分する
STEP5: 履行義務を充足した時に、または充足するにつれて収益を認識する
今回はこの5ステップのうちのステップ3である「取引価格の算定」について解説していきます。
取引価格の算定に関する4つの論点
取引価格の算定といっても、素直に考えれば普通は契約で決めた金額がそのまま取引価格になるはずです。
しかし、取引価格の算定は実は奥深く、4つの大きな論点があります。
- 変動対価
- 契約における重要な金融要素
- 顧客に支払われる対価
- 現金以外の対価
IFRS15号48項/企業会計基準第29号48項でも、取引価格を算定する際には、この4つを考慮することとされています。
【企業会計基準第29号48項】(タップすると開きます)
顧客により約束された対価の性質、時期及び金額は、取引価格の見積りに影響を与える。取引価格を算定する際には、次の(1)から(4)のすべての影響を考慮する。
- 変動対価(第50項から第55項参照)
- 契約における重要な金融要素(第56項から第58項参照)
- 現金以外の対価(第59項から第62項参照)
- 顧客に支払われる対価(第63項及び第64項参照)
今回はこの中でも「② 契約における重要な金融要素」について解説していきます。
契約における重要な金融要素とは?
会計基準では、契約に「重要な金融要素」が含まれる場合、約束した対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整することが求められています。
【企業会計基準第29号57項】(タップすると開きます)
顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、取引価格の算定にあたっては、約束した対価の額に含まれる金利相当分の影響を調整する。収益は、約束した財又はサービスが 顧客に移転した時点で(又は移転するにつれて)、当該財又はサービスに対して顧客が支払うと見込まれる現金販売価格を反映する金額で認識する。
これだけだと非常にわかりにくいので、噛み砕いて言うと以下のような形になります。
対価に利息が含まれていると考えられる場合、取引価格の算定において利息分は収益の額から除き、その利息分は金融収益として別途計上する必要がある
「対価に利息が含まれている場合」というのはどのような状況かイメージつくでしょうか。
具体例と共に解説していきたいと思います。
対価に利息が含まれるケースの具体例
今回は企業Cが製造機械を顧客Dに販売するケースを想定します。
このケースは対価に利息が含まれている=契約に重要な金融要素が含まれていると考えられます。
なぜそのように考えられるか解説していきます。
対価の支払いが4年後というのは実質的に4年間お金を借りているのと同じ
まず、このケースの最大の特徴は以下の2点です。
- 対価の支払いを4年後まで遅らせることが認められている
- 今すぐに支払えば5%の割引を受けられる
➡ つまり、今すぐに支払えば対価は3,800万円となるが、対価を200万円増額をすることで、支払いを4年後まで遅らせることが可能
今回のケースでは、本来は今すぐに支払うべき3,800万円を、4年後の支払いにすることが可能です。
これは、実質的には顧客Dが企業Cから借入を行って購入するのと同じ効果があります。
顧客Dが企業Cから購入代金分のお金を借りた上で、そのお金で対価の支払いを行ったと考えられるためです。
現在の対価と将来の対価の差額は実質的に利息
そして、4年後の対価の支払いは、実質的には借入金の返済です。
しかし、4年後に支払うべき金額は4,000万円であり、購入価格であり借入金額である3,800万円から200万円増額されています。
この増額は何を示しているでしょうか?
これは、製品購入のための借入3,800万円に対して発生した利息であると考えられます。
4年間お金を借りている間に、その借入金に対して利息が発生していたのです。
つまり、4年後に支払う4,000万円は、借入金3,800万円の返済と、この借入に対する利息の支払い200万の合計額であると考えられます。
このケースのまとめと会計処理
まとめると、今回のケースは以下のように解釈できます。
- 対価の支払いを4年後にできるということは、実質的には4年間お金を借りていることと同じ
- 4年後に支払う対価には、実質的には200万円の利息が含まれている
➡ 対価に利息が含まれている=契約に重要な金融要素が含まれている
今回のケースは契約に重要な金融要素が含まれていると考えられるため、企業Cは以下の会計処理を行います。
- 機械の販売時に金利相当分200万円を除いた3,800万円を収益計上する
- 金利相当分200万円は時の経過と共に(販売収益とは別に)金融収益として計上する
契約に重要な金融要素が含まれているか否かの判定
契約に重要な金融要素が含まれるか否かは、以下の2要件に照らして判定するとされています。
- 商品などが顧客に移転するタイミングと顧客が支払いを行うタイミングが異なる
- 資金提供の重要な便益が顧客又は企業に提供される
【企業会計基準第29号56項】(タップすると開きます)
契約の当事者が明示的又は黙示的に合意した支払時期により、財又はサービスの顧客への移転に係る信用供与についての重要な便益が顧客又は企業に提供される場合には、顧客との契約は重要な金融要素を含むものとする。
例によってこれだけだとわかりにくいので、一つずつ解説していきます。
1. 商品などが顧客に移転するタイミングと顧客が支払いを行うタイミングが異なる
この要件はわかりやすいかと思います。
商品の引き渡しのタイミングと支払いのタイミングが異なる場合、対価に金融要素(つまり利息)が含まれている可能性が高いです。
お金の時間価値を考えると、今の3,800万円の価値は4年後には増えているはずであり、売り主はその分を考慮して4年後の支払額を決定している可能性が高いからです。
先ほどのケースの場合、顧客Dは対価の支払いを4年後まで遅らせることができるため、この要件は満たしています。
2. 資金提供の重要な便益が顧客又は企業に提供される
支払いのタイミングが異なるだけでは金融要素が含まれない可能性もあります。
そこで、会計基準は金融機能が提供されていること、つまりは実質的にお金の貸し借りが行われていることも要件としています。
先ほどの例で見た通り、商品引き渡しと対価の支払いのタイミングが異なることで、実質的には売り手が買い手にお金を貸している状態になるケースがあります。
このような状態の場合、買い手は売り手からの資金提供(購入資金の借り入れ)という形で便益を受けており、契約に金融要素が含まれていると考えられるということです。
まとめ
今回は収益認識ステップ3の「取引価格の算定」の論点の一つである「契約における重要な金融要素」について深堀りして解説しました。
本記事のポイントは以下の通りです。
- 対価に利息が含まれていると考えられる場合、取引価格の算定において利息分は収益の額から除き、その利息分は金融収益として別途計上する必要がある
- 対価の支払いを遅らせる場合、実質的にはその期間お金を借りていることと同じ
- その場合、現在の対価と将来の対価の差額は実質的に利息部分
- 商品移転のタイミングと支払いのタイミングが異なり、実質的にお金の賃借を行っている場合に、契約に金融要素が含まれていると考える
それでは今回は以上です。
IFRS15や会計処理に関してご相談がある場合は以下のコンタクトフォームからお気軽にご連絡ください。